第7話はこちら


迎えた試合当日。

Planetのデビュー戦の会場は偶然にも、高校生のときに毎回使用していた三和体育館だった。いわば、Planetの本拠地といっても過言ではない。

はじめのチーム方針は、経験値問わず全員の出場時間を確保すること。基本的には、各ピリオドで全員を入れ替えるようなスタンスで試合に臨むことにしていた。

記念すべき1回戦の相手はペガサス。
190センチ近いセンタープレイヤーが居たことが印象に残っている。

マンツーマンディフェンスでスタートしたものの、かなり早い段階で2-3の即席ゾーンに切り替えた。2列目の中央に入った恵介が、参加2日目にして積極的にコーチングをしてくれたので、即席ながら形になっていたと思う。チームのみんなはガチガチで試合に入ったが、恵介は動じることなくチームを鼓舞してくれた。
ロースコアで平行線を辿ったゲームが徐々に動き出したのは後半。1列目の上野、2列目の恵介が積極的なプレスからボールを奪うと、すかさず速攻を繰り出す。流れが掴めてきたところで、相手の足も少しずつ止まっていった。この日絶好調だった上野がスリーポイントを次々と沈めてくれたおかげで、相手も万事休す。
2人を中心に全員で奮闘し、初の公式戦で見事勝利を収めることができた。

続く2回戦の対戦相手は、ご近所さんでよく練習試合の相手をしてくれていた野母崎BCと、ストライクホースの勝者。個人的には公式戦で野母崎BCと対戦したい気持ちがあったものの、勝ったのはストライクホースだった。

相手の7番には気を付けた方が良いよ。
Planetなら勝てる。

試合後、野母崎BCの永江さんから、とても温かいアドバイスをいただいた。
この気持ちに応えるためにも、勢いそのままに勝ちたいと思っていた矢先に事件は起きた。

俺、帰らんば!
福岡でRADのライブ!

そう言い残して1回戦の勝利の立役者・上野は姿を消した。

積極果敢なプレスと精度の高いスリーポイントという両翼を、RADWIMPSに削ぎ落されてしまったのだ。上野の脳内では「いいんですか?いいんですか?試合投げ出してライブはいいんですか?いいんですよ、いいんですよ。」と、意気揚々としたメロディが流れていたに違いない。体育館を後にする上野の表情は、それはもう満足そうなニヤけ面だった。
とは言っても、ライブは当日に決まることではない。仕方のないことだとみんなは気にすることなく笑っていたが、2回戦の火ぶたが切って落とされたとき、上野の偉大さを知ることになる。

学生の頃は、1日に数試合などよくある話だったので体も慣れていたものの、社会人の1日に複数試合というのはかなり堪える。序盤は競っていたスコアも、後半に入るとじりじりと離された。

最終的な点差は大きく開かなかったものの、敗れた。

たくさん外してしまってすみませんでした。

恵介が試合後にみんなにこう言った。
とんでもない。もちろんみんなの力あってこその初勝利だったが、恵介の力なしでは1回戦の勝利も危うかったし、チームとしては「勝たせてもらった」以外の何物でもない。合流して間もないチームに、ここまで尽くしてくれる選手は後にも先にも居ないと思う。謝ってくれる恵介に対して、みんなは揃って感謝を伝えたが、本人はそれでもすみませんと言っていた。
恵介はこの後も、職場の新人研修が終わる数ヶ月の間、何度も練習に足を運んでくれて、たくさんのアドバイスをしてくれた。未熟だったチームに、社会人チームとしての礎を築くきっかけをくれた恵介には、メンバー一同「ありがとう」の気持ちでいっぱいだ。
彼はいま、地元の岩手県に戻っているそうだが、メンバーの誰もが、またいつか長崎に遊びに来てくれる日を心待ちにしている。

話は戻るが、ベスメン大会は各チーム1人ずつ審判を出して次の試合を裁くことになっている。1回戦の後は上野が笛を吹いてくれたものの、当の本人は今頃マリンメッセではしゃぎ倒している。結局、この日2試合で酷使した恵介に頭を下げ、足を吊りかけながらも笛を口にくわえて必死に走る恵介の姿をみんなで眺めていた。

とてつもない残酷なこの仕打ち。
このチームは、とんだブラック企業に成長していたのであった。


続く

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長崎で活動するYouTubeチャンネル「遊ぶ門には福来る。」から生まれたウェブサイト。言葉の魅力、地域の魅力を不定期に発信していきます。

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2件のコメント

  1. […] 第6話はこちら冬を越えて、春先に差し掛かっていたところ、上野がある話を持ってきた。ベスメン出れるけどどうする?ベスメンとは、長崎市で定期的に開催されているトーナメント制の大会で、フープリーグを探しているときにも目には留まった大会。ただ、トーナメント制だったことや、ツテがないと参加できないとの噂を耳にしていたため、特に気にしていなかった。上野がどこからこの話を持ってきたのかは定かではないが、みんなに意見を聴いたところ、参加してみたいとの声が多かったのでエントリーすることにした。大会は4月の上旬。ゴールデンウィーク前のフープリーグの開幕戦よりも早い日程だった。迎えた大会の前日。あにーじゃがある助っ人を連れて来た。彼の名前は恵介。何でも、岩手県出身で健斗たちの年代と同級生だった恵介は、あにーじゃの会社の新入社員研修で長崎に来ており、バスケの経験があるとのことで連れて来てくれた助っ人だった。紅白戦に入ってもらって度肝を抜いた。なんと恵介は、岩手県のバスケ強豪校を卒業したての、国体候補選手だったのだ。1年生の頃にはインターハイも経験しており、実力は折り紙付き。むしろ、Planetでバスケをしていて良い人材ではなかった。しかし彼もまた、明るいキャラクターを持ち合わせており、参加初日にしてみんなと打ち解けていた。その日の事件はまだまだ終わらない。紅白戦も終盤に差し掛かったところで、なんと敦志が足首に怪我を負ってしまった。みんなが倒れ込む敦志にすぐに駆け寄り、シューズを脱がすと赤く腫れあがっていた。敦志はリーダーシップがあり、運動量豊富でリバウンドにもよく絡んでくれる、チームにとって欠かせない存在だったのだが、Planetの公式戦デビューを目の前にして戦線離脱することになってしまった。本人の足も痛かったと思うが、チームとしてもかなりの痛手だった。しかし、神様はこのタイミングで恵介に巡り会わせてくれたのだった。じゃあ、俺のユニフォームで恵介に出てもらえば!?敦志がそう言った。え?いいんですか?恵介はそう返したが、当たり前の反応である。Planet体制になってからというもの、敦志の頑張りを見てきた自分もそう思ったし、そんな歴史を知らない恵介もそう思っている。敦志自身が一番悔しい思いをしていたはずなのに、そう提案してくれた敦志はとても強いんだなと思った。恵介は、遠慮しつつも試合に出ることを承諾してくれた。いま思えば、「え?いいんですか?」と言うべきは自分たちだったのかもしれない。その話がまとまり、片付けを始めようとしたときに、気付いたら言葉を発していた。このタイミングで言うのもなんやけど、みんなありがとう。これまで3年間、みんなが嫌な顔ひとつせず、こんなに頼りない俺についてきてくれたおかげで明日の試合に出られる。なんと素っ頓狂なタイミング。有無を言わせず上野が突っ込んだ。いま!?!?その突っ込みでみんなは笑ってくれたが、練習前からこれだけは伝えなければと思っていたのでスッキリした。当時、帰宅部の高校2年生だった自分たちが立ち上げたチームが、明日、社会人の試合に出場するのだ。考えれば考えるほど感慨深かった。みんなはただ「大好きなバスケをして、他のチームと試合が出来る」くらいの感覚だったのかもしれないが、自分にとっては本当に大きな一歩だった。全ては自分の言葉で始まった。大げさかもしれないけれど、何かをやりたいと思ったときに踏み出す一歩が大切だと思えたし、あのとき踏み出した一歩のおかげで、宝物のように思える居場所が出来たことを、本当に幸せに思う。そして迎えた翌日、Planetの戦いが始まったのであった。続く第8話はこちら […]

  2. […] 第8話はこちら恵介が去った後のチームは、以前よりも少しずつではあるが声が飛び交うようなチームに成長していた。迎えたリーグ戦ではなかなかチームとしては結果が出なかったものの、夏ごろからある選手がメキメキと頭角を現していくことになる。夏になると、2回目の参戦となったベスメン大会と、その翌週にはフープリーグの土日2連戦が続いた。ここでも残念ながら勝利をもぎ取ることはできなかったのだが、この3連戦で絶好調だったのが健斗だ。中に切れ込んでも、外から打たせてもとにかく点が入る。もちろん、ほかのメンバーよりもボールを持つ時間が長かったことはたしかだが、驚いたのはその精度だった。健斗はこのTeam Historyを常にチェックしてくれているので「違いますよ!」と言われてしまうかもしれないが、とにかくこの時期は毎試合20点以上を稼ぐのが当たり前といっても過言ではないほど活躍していたはずだ。その後も公式戦ではなかなか結果が出ない日々が続いていたのだが、秋口に入ったころのリーグ戦でいよいよ結果が出る。この試合で対戦したのは「三和クラブ」初めて対戦するチームで、平均年齢は相手が上だったものの、若くて大きい選手が2人、インサイドでプレイしていたような記憶がある。この試合ではこれまでと違い、前半でかなりのリードを奪う。ハーフタイムの段階では、勝てるんじゃないかと完全に油断していた。迎えた後半、相手が2-3のゾーンディフェンスに切り替えたところで状況は一変する。ミドルサードで打たされるような展開が続き、徐々にシュートタッチも悪くなった。速攻で崩されるような展開にはならなかったものの、こちらの点数が入らないことでじりじりと点差を詰められ、ついに逆転された。最終ピリオドに入っても状況は変わらなかったのだが、3点差をつけられたタイミングで健斗が放ったミドルシュートのこぼれ球を宏嗣がなんとかゴールにねじ込み1点差に詰め寄ると、続く相手の攻撃を宏嗣がわずかに触ってカット。ルーズボールを拾った和也が矢のようなボールを前線に送ると、走り出していた健斗がそれに反応した。ここで事件が起こる。パスカットを狙った相手選手がボールに触れ、それが健斗のおなかに当たり、一瞬エンドラインを越えたかに思われた。健斗はそのまま後ろを追ってきていた上野にパス。ここでパスカットを狙った選手がアツくなり、まるでアザラシのような声で審判に抗議をしたものの、笛はならない。大会の途中でRADWIMPSのライブに行くような冷徹人間代表の上野がその隙を見逃すはずがない。どフリーの状態でしっかりと体勢を立て直した放ったスリーポイントシュートがリングを射抜いた。非情にも、シュートを沈めた上野はいつものようにニヤニヤしていた。その後、相手にフリースローのチャンスを与えてしまったものの、相手選手が2本とも外してくれたおかげで試合終了。ぎりぎりの接戦をものにした、嬉しいリーグ初勝利だった。結局、Planetのリーグ参入となったこのシーズンは、この試合以外は全て負けてしまった。もちろん結果だけ見ると残念なシーズンではあったが、チームとして年間のリーグ戦を戦い抜いたという点では収穫だった。チームとしての団結が深まり、ようやく出場した公式戦での勝利。Planet体制になってからというもの、何もかもが新鮮で楽しかった時間を過ごしていたが、次のシーズンは誰もが予想だにしなかった結末を迎えることになる。続く […]

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