— 早く食べてしまいなさい!

この言葉に怯えてしまった小学1年生、当時6歳の僕。

大きなランドセルを背負ってくぐる門の中は、たくさんの友だちと楽しく過ごせるテーマパーク。机にはポケモンの筆箱を自慢げに置いて、先生の問いかけに大きな返事で答えて、休み時間になるとボールを持って校庭に駆け出す。

転んでケガをしても、誰かとケンカをしても、次の日にはキレイさっぱり忘れてしまうくらい、キラキラした毎日を過ごしていた。

そんなある日、給食を食べている最中におなかが痛くなってしまった。おいしいはずの給食がいつものように飲み込めない……異変に気づいてくれた友だちが先生に声を掛けてくれて、もう大丈夫だと思った次の瞬間、先のセリフを突き付けられてしまった。

強い口調ではなかったけれど、当時の僕にとっては「泣きっ面に蜂」ならぬ「どてっぱらに飯」。この日を境に、楽しい給食の時間は、絶対に負けられない戦いへと切り替わった(とは言っても、1年くらいだったけれど)。

この出来事を思い返すたびに「給食の時間と昼休みを一緒にしたらいいのに」なんて思ってしまうけれど、先生の昼休みの予定や食器の片付けに影響するのだろう。

— たまには、マックを食べたっていいんですよ。

この言葉にすっかり感化されてしまったサラリーマン8年生、御年25歳の僕。今回は、そんな言葉をかけてくれた薬膳の先生・荒木真波さんにお話を伺いました。




長野:今日はよろしくお願いします!


荒木:よろしくお願いします~。


長野:早速なんですが、薬膳って、木の実!とか、薬!とか、そういうイメージが強くてネットで調べてみました。…が、チンプンカンプンで。(笑)


荒木:やっぱり、そうですよね~。(笑)

ちなみに、ネットで調べたらなんて出てきましたか?


長野:陰とか陽とか、料理の写真よりも理論的な説明が多かった気がします…。そういうのを読んでしまうと、スーパーでの買い物で触れる機会があるのかなぁ、みたいな。


荒木:あぁ~。さっきも、chiico Lab. でオンラインミーティングをやったんですけど、その時にも皆さん同じことを言われてました!変な実を使って~とか、乾燥された何かを~とか。(笑)

薬膳って言うと、おいしくなさそうなイメージだったり、そうじゃなくても特別な料理って思われてるなぁって改めて感じたんですけど、簡単に言うと、本当に身近なもので出来ます。スーパーで売ってるもの…例えば、シナモンとか、生姜とか!

食薬同源っていう言葉があって…。


長野:しょくやくどうげん…?


荒木:食べる、薬、同じ、源って書くんです。

すべての食材は、目的に応じて薬にも食べ物にも成り得るっていう考えなんですね。だから、同じ生姜でも、食べ物として使うし、ちょっと風邪を引いたからっていうので薬の役割としても使えるんですよ。


長野:水陸両用みたいな…。


荒木:そんな感じです、うふふ。(笑)

木の実とか、乾燥した何かとか、苦そうなものってイメージさせるものが食薬っていうものなんですね。薬よりも効果はないけど、食べ物よりも効果がある、という感じに分類されているものです。スパイスとか、それこそ生姜やシナモンもそこに分類されるんですけど、この食薬が薬膳を難しく捉えさせてしまっているものです。

夏に暑いからスイカを食べる、これも立派な薬膳なんですよ!

さっきお話しされていた陰とか陽とか、その考えに基づいて作られた料理であれば、どんなものでも薬膳になるんです。


長野:気付いていないだけで、無意識にやっているということ?


荒木:そうなんです、本当に考え方次第なんですよ。


長野:もっと、遠い世界の話だと思っていました…。


荒木:酸っぱいものって汗のかきすぎを防ぐ効果があって、だからレモンを夏に摂ったり。季節はもちろん、食べる人の体質に合わせてあげるのも薬膳。私は、オーダーメイドのごはん=薬膳だと思ってます。




長野:効果としてはどういうものが?


荒木:スイカとかは、食べるとすうっと身体の熱が冷めたりっていう即効性があったりしますけど、すべての食べ物がそういうわけではないです。

病気になりにくい身体づくりだったり、体質改善だったり、そういった部分が薬膳の大きな目的だと思っていて…。私、薬膳を勉強するまでは、すぐ病院に行く人だったんですよ!(笑)


長野:えぇ、そうなんですか!?(笑)


荒木:そうそう、でも薬膳を学んでからはぐっと減りました。

人間も動物と同じで、自然に治すっていう力は持っていて、身体の何らかのバランスが崩れてしまったときに体調不良として表れるんですね。なので、そのバランスを整えてあげたらOKなんですよ!

私自身も、相手も、この季節になったらこうなるなぁとか、だいたい分かってくるんですね。それが、予防医学…医学って言っちゃうと堅苦しくなるけど、こうなりやすいから、この食材を使って予防しようって出来るようになるイメージです。

薬膳で整えてあげることで、単純に強くなりますよね。ゲームとかで言うと何になるんだろう…。(笑)


長野:分かります。鎧とか、装備的なものですよね。(笑)


荒木:それ!キャラが強くなるみたいな。(笑)

特にいまは感染症が流行っているから、この機会に薬膳を知ってほしいなぁって気持ちは日に日に大きくなってますし、薬膳を学ぶことで、自分や相手に対しても優しくなれるんです。


長野:まなさんは、薬膳を用いてどんな活動をされているんですか?


荒木:料理教室とか、料理のイベントがメインです。薬膳の考え方を基に、みんなでキンパを巻いてみたり…。


長野:(きんぱを撒く…?)

後ほど調べてみると、キムパプという韓国海苔巻きらしいです。無知を恥じるべきか、想像力を褒めるべきか、私の脳内には金箔の塊みたいなものをお相撲さんがステージの上から撒いている画が浮かんでしまった…。


先日インタビューさせていただいたTANOさんに、まなさんの似顔絵をベースに私の脳内のイメージを描いていただきました。右脇に抱えているのが正しいキンパです。似顔絵が気になった方はぜひ、ご依頼はこちらから!(TANOさん、ご協力ありがとうございました!)



荒木:今はそういうイベントがどうしても出来ないので、オンラインで講座を始めたりもしています。飲食店の方が「薬膳について学びたい」と仰ってくださったので、何度かマンツーマンで教えたりもしていますね。


長野:プロの料理人さんに教えているってことですね…!


荒木:新しいメニューとか、そういう形でコラボができたらいいねっていう話もしています。薬膳は敷居が高いものってイメージされがちだから、何か面白いことをやっていかないと知っていただけない、一歩踏み込んでいただけないものかなぁと…。まずは食べていただいて~って考えていた矢先に、ウイルスが…。(笑)


長野:タイミングですね…。


荒木:最初のイメージって大きいですよね。凄く堅苦しいものだと思われているから、もう薬膳をベースにした新ジャンルの名前にしちゃおっかな~とか。(笑)

chiico Lab. の林さんが言ってくださった「映える薬膳」が、面白い!と思って。


長野:なるほどですね…。まなさんが「薬膳を始めよう!」と思った理由ってなんですか?


荒木:簡単に言うと、料理が好きだから。私が作った料理を「おいしい」って言ってくれる人がいて、こうして誰かの役に立てる仕事がいいなって思ったのが、一番のきっかけです。

結婚するまではエステの仕事をしていて、お客さんに食事のことを聞かれることがあったんです。「食物繊維を摂りましょうね」みたいなアドバイスが出来ていたんですけど、気付いたら「私、この人に何回も同じこと言ってる!」みたいな。(笑)

もっと深い、その人だけに向けたアドバイスが出来ないかなっていうもどかしさを感じながら、悶々と仕事をしていたんですよね。

それから結婚を機に仕事を辞めて長崎に来て、エステのコースの中に中医学があったことを思い出して、それと料理が結びつくことがないのかなって考えていた時に出会ったのが薬膳だったんです。


長野:それからは独学ですか?


荒木:それから講座を受けて、協会認定の講師にはなってるんですけど、奥が深すぎて日々勉強しないと追いつかないって感じですね…。やっぱり、食事って大切ですもんね。


長野:子どもが生まれて、凄く考えるようになりました。


荒木:私も、子どもが生まれたことが大きなきっかけの1つだったんですけど、情報が色々ありすぎる。これはダメ、あれもダメとか。だけど、それがこの子に当てはまることなのかなって考えると、どれが本当なのか分からない!みたいになっちゃって。

子どもだったり旦那だったり、食べてもらう相手がいて、それからそれぞれの体質を考えて、それぞれの食材を選んで、生かすっていうのが薬膳なので。食べてくれる人がいて、初めて成立するんです。だから、しっかり勉強しようって思えましたね。


長野:凄く不躾な質問なんですけど、お子さんだったり、旦那さんだったり、みんな体質が違うと思うんです。それが薬膳の醍醐味だったりするとは思うんですけど、ぶっちゃけ「めんどくせぇ!」なんて思ったりしないんですか?


荒木:あー、めんどくさいときは…正直あります。(笑)


長野:ですよね!凄く大変なイメージが…。(笑)


荒木:私、薬膳を教えながら「先生の私でも、薬膳をしていないときがあります。」って言います。(笑)

薬膳に対して、ストイックになってほしくないなっていうのが凄くあって。これを学んだから絶対薬膳をしないといけない!ってなっちゃうと、途端に楽しくなくなっちゃうと思うんです。

ごはんを作るたびに「これは食べちゃだめ」って考えちゃうと、おいしくなくなるし、楽しく食べること…目で見て楽しむのも、味を楽しむのもそうだし、それを見失ってしまうと、身体に良いものも悪くなっちゃう気がして。

もちろん、薬膳講師として中医学の考え方だったりは真摯に伝えたいと思っているんですけど、それと一緒に「たまには、マック食べたっていいんですよ。」って言う。(笑)

食べたいものを食べていいし、「今日はちょっとめんどくさいから、コンビニでもいいや」って思っても全然OKなんです!その分、どこかのタイミングで薬膳について考えて、帳尻を合わせてもらってOKだから、本当にゆる~く考えてくださいって言ってます。

私も、何も考えずに買って、食べたいものを食べるときがあります!

これ言ったら、怒られる気がしなくもないんだけど…。(笑)


長野:これ、書いても大丈夫なやつですか?(笑)


荒木:全然大丈夫です!(笑)

ストイックにやりたい人も素敵だと思うし、そういった人たちはぜひ薬膳の魅力を楽しんでほしい。だけど、私の薬膳はこのスタンスで、ストイックに学びたい人には「ぜひそういった方に教えてもらってください」って言っちゃうくらい、マジでゆるい!(笑)


長野:(「マジでゆるい!」が、マジでゆるい…!)


荒木:薬膳の世界で尊敬する人たちはたくさんいるし、凄いなあって思うんです。だけど、実際には「子どもがいるから…」「仕事があるから…」って感じて薬膳に一歩踏み出せない人もいると思うから、そこはもう、私自身も自分の気持ちに正直にやりたいなって思ってます。


長野:ありがとうございます、凄く正直なお話が聴けて良かったです。(笑)




長野:薬膳教室や、イベントの中での悩みだったりはありますか?


荒木:ここまでの話と被る部分があるんですけど、薬膳はおいしくなさそう、苦そうっていうイメージを持たれている方が多いから、まずはマイナスイメージを払拭しないといけない。これが一番大変なところかな。私にとっては、自分自身の考えが凝り固まらないからプラスの面もあるんですけど…。

あとは、私は長崎が地元ではないので…。


長野:地元はどちらで?


荒木:私、岡山なんですよ。


長野:九州ですらなかった…!(笑)


荒木:そう~。(笑)

まったく知り合いがいない中でイチから集めないといけないっていうのは、結構大変だなあって思ってました。これも裏を返せば、新しい出会いがあるから嬉しいことだなぁって思う。

そういう意味では、ともちゃん(※)に出会って、chiico Lab.でまた新たな出会いがあって、それは地元じゃないっていう気持ちがあったからこそ「参加してみよう!」って思えたきっかけでもあったから。すべて良し!ですよね!


※ともちゃん…2018年末、福岡県から長崎県に移住してきたchiico Lab. 運営に携わっている女性の方です。次回のインタビュー記事に登場しますので、要チェック!



長野:そういう意味では、ともさんと境遇が似ている…。


荒木:ともちゃんは長崎愛が凄い…。私は逆に、ごめんなさい。アンチ長崎が凄かったから。(笑)


長野:この活動を始めるまでは、自分もアンチ長崎が強かったですよ。(笑)


荒木:家賃高い!とか、めっちゃ言ってたんですけど、最近は「長崎って凄くいいところだなあ」って思えてきました。


長野:人が素敵すぎますよね…。たしかに、家賃は高いけど。(笑)


荒木:こっち来てびっくりしましたよ~。(笑)


長野:今後、今以上にやりたいことってありますか?


荒木:私は美容関係、ネイルとかもやっていたので…美容関係は身体の外側からケアしていくもので、薬膳と同じ中医学の考えに基づいたアロマセラピーっていうものもあるんですね。それを取り入れていけたら、トータルでケアしていけるかなぁって。


長野:凄い。外から中から…!


荒木:実は私、教育学部専攻の大学出身で、数ヶ月前まで幼児教室で働いていたんですよ。なので、子どもと接するのが好き…というより、それくらいの精神年齢なんですけど。(笑)


長野:衝撃です。(笑)


荒木:子どもたちに、食の大切さを知ってもらえたらいいなぁと思ったことがあって…食育の勉強をしているんですね。自然と調和するっていうところで、旬とか、地産地消の部分と薬膳を絡めていって、子どもが体験できる遊び、イベントをやっていけたらいいなあと思ってます。

あとは、chiico Lab. で異業種の方や色んな活動をされている方と出会える機会に恵まれたので、せっかくなのでコラボをしてみたいなぁって…どれもこれも漠然と。(笑)


長野:素敵だと思います!chiico Lab. 主催のイベントとかあっても面白いなぁって思うし…。


荒木:ラボフェス!みたいな。(笑)


長野:ラブフェスに怒られますよ!(笑)




長野:薬膳を通して、伝えたいことを教えてください。


荒木:食を楽しんでほしい、これに尽きますかね…。

それを伝えるツールとして、私が薬膳の素晴らしさを色んな方に話すことはできるんですけど、たくさんの食べ物が溢れているこの時代で、ただ摂取するだけで終わってほしくない。誰かと一緒に食事をすること、当たり前に思えるけど、これは凄く素敵なことなんです。なので、豊かに食を楽しんでほしいなぁって思います。

薬膳をまだ知らない方、薬膳はおいしいんです!(笑)

ぜひ、食べてみてほしいですね。




オフラインでインタビューが出来ていたら、おいしい薬膳をいただけていたのか…!?なんて悶々とした気持ちを抱えながら、今回のインタビューは終了。さっきまで遠いところにいたはずの薬膳が、すっかり近くに感じられるようになった。

薬膳のやの字も知らない僕に、ゆる~く「食の楽しさ」を答えてくださったまなさん。僕が薬膳に近付いたというより、薬膳が迎えに来てくれたような、そんな印象さえ覚えてしまう。

何事も遠くに感じてしまうのは先入観で、それはきっと薬膳に限った話ではない。今日、あなたが遠くに感じている何かは、明日のあなたを変えてくれるかもしれないし、既に近くにあるのかもしれない。

あなたは、「楽しい」を忘れてはいませんか?


▼荒木真波さんについて
岡山県出身のJMA認定薬膳・漢方&メディカルハーブ講師。結婚を機に長崎へ移住し、薬膳講師として薬膳教室や体験型のイベントを中心に活動中。「ゆるい薬膳」を基本に、薬膳の基礎知識や実習を行われています。

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文筆家。コワーキングスペースで働く傍ら、地域コミュニティchiicoLab.の運営に携わっています。その他、長崎のローカルメディア「ボマイエ」や「ナガサキエール」などでライターとして活動させていただいています。

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