— 私はコンテンツを持ってないから。

先日インタビューをさせていただいたn-space友さんと話をしていると、よくそんな話になる。すると、同じくn-spaceの立石さんが決まって「中村友がコンテンツだから!」と諭すのだけど、当の本人は腑に落ちていない様子。


— ちょーのは文章も動画もあるから。

これはその2人からよく言われるセリフで、そんな言い方をされてしまうと多少の違和感は感じるものの悪い気はしないので「そうですね~…。」なんて、やんわりと肯定する。

それから電話を切って1人になると、さっき感じた多少の違和感がみるみるうちに肥大化していく。


文章を書けるから何なのか。
動画を編集出来るから何なのか。


普段使わない表現をするときは言葉の意味や使い方だって調べているし、編集だって専門用語が分かるわけじゃない。たまたま周りにこれらのツールを使っている人が少ないだけで、知らないだけで、ちょっと見上げれば自分より優れている人なんてごまんといるだろう。

そうやって見上げては「コンテンツってなんだーーーーーー!!」なんてことを思って、このまま丘の上から叫びたくなってしまう。とは言っても自主隔離期間中の #StayHome なのであぐりの丘に行くわけにはいかない。代わりに枕に向かって叫んでみたけれど、ちっとも心は晴れなかった。




さかのぼること15年前。

普段のポジションはフォワードだったくせに、ゴールキーパーが怪我をするとゴールマウスを守った。身長が高くて、補欠かスタメンかギリギリの立ち位置だった私は、コーチにとって使い勝手が良かったらしい。

もちろん率先して汗くさいキーパーグローブを装着するわけはないのだが、必要とされていることに多少のウキウキを感じながらプレーした。慣れないポジションだから怒られることもないし、無失点であればその日はヒーローだった。


それから中学校へ進学して、事情があって2年生の秋口にバスケットボール部へ転部した。2ヶ月後に新人戦を控えたチームは、入部したての私を入れて5人。ここでも、新人戦に出るためには私を使わざるを得ない状況だったのでフル出場した。

迎えた新人戦。25対100くらいの大敗の試合でレイアップを決めた私は、あろうことかサッカー部のノリでコーチと顧問しか座っていないベンチに向かって笑顔でガッツポーズ。当時のコーチは楽しんでいる私を見て「目頭が熱くなった」と言ってくれたけれど、この競技を理解した今、当時の私にこれだけは伝えたい。サッカーとバスケでは、1点の重みがまるで違う!


更に高校に進学した私は、自らチームを創設。経験者ひしめくチームの中で、素人に毛が生えた程度のエセバスケットマンがプレーで役に立てることなんて限られている。紅白戦の動画を撮って、ハイライト動画を編集して、それをYouTubeでメンバー向けに公開した。


自分にできることを続けていれば、きっと居場所はなくならない。

心のどこかで、そう思いながら生きてきたのかもしれない。




そうやって居場所を失わないように生きていると、気持ちに反するように「自分以上に必要とされている存在」が目につくようになる。これはいわゆる承認欲求によるもので、生きている以上どうしても付きまとうものらしい。


話は少し逸れてしまうが、ドラゴンクエストの中で「ダーマ神殿」と呼ばれる場所がある。現実で言うところのハローワークのようなもので、そこを訪れた勇者は、戦士になって技を身につけては転職し、魔法使いになって魔法を身につけては転職し、とにかく「またですか!?」とハローワークの担当者、もといダーマ大神官様が驚くほどに転職を繰り返す。

転職を繰り返す中で自分なりの役割を見つけて1つの道を極めることになるのだが、私自身を顧みると、転職を繰り返した結果、何者にもなれずに右往左往しているようにさえ思えてしまうのだ。

フォワードなのにゴールマウスを守り、サッカー部がレイアップを決めてガッツポーズをしている。エセバスケットマンがチームを10年近く率いているし、もっと言えば国語の点数がちょっといいくらいで文章を書いている。動画に至っては何が何だか分からない。


それでも変わらず、明日はやってくる。
生活はつづくのだ。




毎日とまでは言わないが、友さんが「自分に何が出来るのか」に悩むように、立石さんも「自分とは何なのか」を自問自答している。ここまで散々綴ったように、日々悩めど私自身の答えも見つからない。

そして、これはきっと私たちだけではない。
サラリーマンも学生も。大人も子どもも。

私の想像は凄く平和なものなのでとても綺麗な表現をしてしまうけれど、会社や学校、家庭というコミュニティの中で、人は居場所を探す生き物なんだと思う。

そして、そのコミュニティで一歩踏み出せずにいるあの人も、いつも笑顔で振る舞っているあの人も、実は見えないところで悩んでいるかもしれない。だからこそ、「おいでよ!」と手を引っ張ってくれる人も、コミュニティを提供してくれる人も絶対に必要で、その人たち自身がとても素敵なコンテンツなのだ。


自分はいらないんじゃないかと思うより、やっぱりここにいたいと思うことの方がずっと難しいから。

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文筆家。コワーキングスペースで働く傍ら、地域コミュニティchiicoLab.の運営に携わっています。その他、長崎のローカルメディア「ボマイエ」や「ナガサキエール」などでライターとして活動させていただいています。

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