転職する前に比べて、出勤時間が大幅に遅くなった。

以前の仕事では家を出るのが6時20分。いまの仕事は早くても8時20分。時間は朝も夜も同じように進むけれど、朝の2時間に余裕が生まれると生活に与える影響がとてつもなく大きい。それなのに、僕は転職前と変わらず「やばい!バスに間に合わない!」なんてことをよくやってしまう。

妻が再び仕事を始めたことで、出勤時間が遅い僕が洗濯や洗い物といった家事をこなしているのだが、洗濯は夜のうちにタイマーをセットしているし、洗い物なんて子どもの朝食分だけだ。どう考えても2時間もかかるはずがない。

では、なぜこんなことが起きるのか。

何を隠そう、2時間の余裕のうちの半分を睡眠に使っているからだ。

朝の過ごし方なんて人それぞれだし、別に睡眠に充てることが不正解なんてことはない。ただ、小さい頃から朝型の生活を送ってきた僕にとっては大事件。

自分で睡眠時間を増やしておきながら、毎日「今朝は片付けをしようと心に決めていたはずなのに!」なんてことを思いながら忙しなく寝ぐせを整える。鏡に映る僕は、髪型だけでなく心も決まっていなかった。

モノがあるべき場所を決めていれば、片付けも捗るのだろうか。目の前に転がるボロボロのおもちゃは、息子にとって大切なものなのか。必要なのは時間ではなく断固たる決意だということは理解しているものの、考えれば考えるほど心は揺れる。いや、散らかる。

今回は、そんな散らかり放題の僕の心さえも整えてしまいそうな整理収納アドバイザー・今長未央さんに話を伺った。

(長崎県在住の整理収納アドバイザー、今長未央さん。)


整理収納アドバイザーとは?

今長:私は継続して、みなさんがモノを選ぶことのお手伝いをする人だと言っています。資格を取得する際の講習では「こう伝えましょう」というものもあった気がするんですが…。

「こっちの方がいいです」という表面的な商品紹介をするのではなく、お客様が本当はどっちを選びたいのかを感じ取らないといけない。整理収納アドバイザーはファシリテーターとしての役割を担うと教わってきたんですが、ここ数年でその言葉がしっくりきているという感じです。整理そのもののゴールはお客様に決めていただいて、それをサポートしていくお仕事です。


— ゴールも人によって異なりますよね?

今長:全然違いますね。小さいレベルで言うと引き出し、逆に大きいレベルで言うと部屋とか家とか、そういった規模になってきます。大規模になってくると1日じゃ絶対に無理なので、数日に分散させたりもしていますね。


— あくまで「アドバイザー」ですよね。散らかった部屋の片付け、掃除だったりと言った直接的なサポートをするわけでは?

今長:棚からモノを出して、空いたところに埃が被っているから拭いてあげる…くらいはしますね。ただ、選ぶことに集中させて私が裏方に徹するとか、そういうことではなくて。もちろん選ぶことにも集中してほしいんですけど、お客様自身が生活をされている空間なので、ご自身でやることに価値があるかなって。

(一般家庭から企業まで、範囲は多岐に渡る。)


どうしてこの仕事をやろうと?

今長:私自身がモノの整理ができない人だったんです。それを理論で学んだら、自分の中で腑に落ちた。ゼロからのスタートだったので、悩んでいる人へのアプローチもしやすいですね。


— 「得意だから極めよう!」ではなかったんですね!

今長:分母は増えてきていますが、アドバイザーはどっちかだと思います。得意だから資格を取りたいのか、苦手だから学びたいのか。もっと言えば、アドバイザーとお客様の合う合わないはご縁だと思っています。苦手だから寄り添ってほしい人もいれば、いま以上を求めたい人もいるので。


— 僕は間違いなく前者です。(笑)

今長:お客様が「ボウルを減らしたくない」と仰ることに対して、「うーん」と首を傾げる方も中にはいます。アドバイザー目線で言えば減らした方が良いことは明確なんですけど、私はそこに違和感を感じた。それって、その時点でアドバイザーのゴールに向かってるんです。そうすることで必ず暮らしは良くなる。だけど、お客様に合ったプロセスを踏ませてあげないとあんまり意味がないんじゃないかと。


— 減らすことに対して、お客様自身が納得しないといけないということ?

今長:そうですね。私は「捨ててください」とは絶対に言いません。あくまでお客様の選択を尊重します。お客様自身が選択されることで、そこに自己肯定感が生まれると思っています。その答えは世間一般的に考えると不正解かもしれないけど、そのご家庭では正解なんです。


— 「世間一般的な正解」があるということは、未央さんの中で「これ捨てた方が良くなるのにな」って思うこともあるんですか?

今長:ある、けど言わないです。(笑)

モノって、その人なりのストーリーがあるんです。壊れた家電でも「○○さんからいただいたもの」という事情がひとつ添えられるだけで、全然見え方が変わってきますよね。整理収納アドバイザーという仕事をする以上は、そこを引き出してあげられる話術が必要だと考えています。


— 「この人には言えない」って思われたら、それまでですよね…。

今長:話を聴けるか、聴けないかで「大切」の価値が大きく変わってくるなあと…。


— すごく分かるなぁ…。

今長:そうなんですか?


— モノの整理じゃないんですけど、僕と話したいっていう人がいたんです。でも、その人は僕が「大切にしたい」部分の話を一切聴いてくれなくて…。(笑)

今長:その人は、きっと話を「したい」じゃなくて、「聴いてほしい」だけなんです。(笑)


— 僕は、自分自身の言葉を不特定多数の人に売りつけたくないし、家族との時間を割いてまで文章は書きたくないんです。あくまで僕の価値観なんですが、文章書くために大きなコストをかけることが馬鹿馬鹿しい。すみません、話が逸れてしまいました。

今長:あー、なんとなく分かりました。(笑)


— 整理収納アドバイザーの仕事をするしない以前に、「整理収納の勉強をしよう!」と思ったきっかけがあったんですよね?

今長:そうですね。うち、旦那がめちゃくちゃ片付け出来る人なんですよ。(笑)

当時の私は片付けができない人だったので、凄く攻め立てられてて…。それをお義母さんに見られたことがあったんです。そのときにお義母さんが「育った環境が違うんだから、そこは責めたらだめ」って言ってくれたことで火がついたんです。以前出演したラジオでこの話をしたら、MCさんから「普通はそこで捻くれるんですけどね」って言われちゃいました。(笑)

私は「認めてくれる人が居るんだ」と思って、「克服しなきゃ!」と思えたんです。これがきっかけですね。

公ではあまり言ってこなかったんですけど、若い頃に付き合っていた方が夜逃げしたことがあって。私がその片付けをせざるを得なかったんですが、本当に部屋が汚くて。その経験があったので、整理する前のお部屋に対する免疫もついてます。まじで悲惨だったんですよ。(笑)


— そんなに…?

今長:冷蔵庫を開けたらウジ虫がぶわーって。彼の写真がその場にあったんですけど、目の前で引きちぎっちゃいました。(笑)

こんなドラマみたいな話を自分自身が体験したから、私の身近にはドラマが溢れてるんだって思うようになりました。


— 街ですれ違う人たちにも、色んなドラマが…。

今長:そう考えると、心が穏やかになりました。私の苦労なんてちっぽけだなって。(笑)


— アドバイザーになった今だからこそ「こんなこともあったな」と思い返せたんですね。資格取得まではあっという間だったんでしょうか?

今長:当時は壱岐に住んでいて、最初に受けた2級は福岡まで行く必要がありました。講習が進むにつれて「これは私の仕事にできる」と思い始めていたんですが、2級はあくまで自宅の整理収納ができるというものだったんです。

2級を取得したのは6月。それからアドバイザーを仕事にするために福岡で1級を取得すると考えた場合、次回開催は12月だったんですね。とても迷ったんですが、その前の九州開催を調べて………私、無謀にも沖縄まで飛んだんです。(笑)


— 島から島、更に島へ…。(笑)

今長:とても尊敬している講師の方から「長崎にはまだ(整理収納アドバイザーが)いないから、取ってみるといいよ」と言っていただいたことも着火剤になりましたね。(笑)

講座を受けるので1回、一次試験で1回、二次試験で1回。ちなみに、それまで飛行機に乗ったことがなかったんです。


— 修学旅行などで乗る機会もなかったんですか?

今長:修学旅行は新幹線でした。私、高所恐怖症もあるんですけど、そもそも「鉄が飛ぶはずがない」と思っていたので。


— うちの祖父と同じこと言ってますよ。(笑)

今長:「今やらないといつやるんだ」っていう勢いで飛びました。3歳と1歳の子どもを旦那に任せて2泊3日とか…。


— もし、うちでそんなことが起きたら…。(笑)

今長:そう、私は結構とんでもないことをしたんです。(笑)

休みを取って子どものお世話をしてくれた旦那はもちろん、近所の友だちが早朝から船着き場まで送ってくれたり。その友だちの旦那さんが高校教師だったので、試験のプレゼンを聴いてもらって、添削してもらったり…。この資格は1人では絶対に取れなかった。私は、人に助けられながら生きてきたんです。

(「一人ではアドバイザーになれなかった」と語る彼女。)


このお仕事のやりがいを教えてください。

今長:お客様の顔つきが変わる瞬間ですね。整うという結果は見えているんですけど、そこにお客様自身が納得しているか否かはすごく大きい。いくら綺麗にしても、一方的だったら意味がない。一番は気持ちの部分、「お願いして良かった」と言っていただいたときにやりがいを感じます。


— 逆に、難しいと感じるところも聴きたいです。

今長:お客様自身でゴールまでの道のりを複雑にされている場合も多いです。「それ、捨てなくていいんじゃないですか?」と提案すると、きょとんとされる方も結構いらっしゃる。「自分の家」らしい答えを「他人の家」らしい答えとして求めているから誤差が生まれるので、そこの擦り合わせができたらいいなと。でも私はビビりだから、終わった後に「大丈夫でしたか?」って聞いちゃうんです。(笑)


— すっごく分かります。(笑)

今長:先日の例で言うと、お部屋の片隅にかごが吊るされていて、そこにホコリ被った人形があったんです。「これどうしますか?」って聞いたら、「綺麗にするからちょっと待ってください!」って言われたんですね。「これホコリ被ってるから、もう捨てましょうか」だと、そこで終わるんです。実は大切にしてたつもりが放置してた。みたいなこともありますね。

あとは、整理収納アドバイザーとしての価値が見出しにくい。私が扱っているのはモノじゃないので、「この話術や知識はお金に替えるといくらなんだろう」って考えることが多いです。あとは、100人に提供したから実績なのか。提供した数よりも、納得いただけた数に重きを置きたいなと思っています。

(モノは「居場所がないから片付かない」という。)


どんな方に提供したいですか?

今長:本質を言うと、お金に困ってる方。お金を払える方は求められるからいいけど、困っている方は求めたくても求められないんです。お金は企業からいただければいいので、本当に困っている人たちを助けたいですね。


— 人や企業によって、払える金額は違いますよね。僕自身、文章に対する料金表を設けた方がいいって声をいただくことが多いんですけど、お互い腹を割って話をしたい。

今長:お客様の家にいくと、ゴミじゃないけど捨てられるモノが絶対出るんです。アドバイザーという仕事を通して、それらを必要なところに回したいなぁと思っています。「おてらおやつクラブ」って知ってますか?


— 知らないです!

今長:お供え物を児童福祉施設などに寄付しているところがあるんです。気になって、その話も聞きに行きました。色んな家の中で滞ってるモノでも、それを必要としている人はいると思うので。お金に困ってる方という表現は良くないですが、一般の家庭には本当に無料でいきたい。もちろん、安かろう悪かろうと捉える方もいると思うけど…。


— 価格を判断材料のひとつとして考えられる人もいるかもしれないですね。講座を受けた方に対して、一番感じてほしいことは?

今長:自己肯定感を高めてあげたいですね。「自分の好きにしていいんだよ」って。講座を受けている方は家族のために身を削りがちなので、ちょっと手を抜いていいんだって思っていただけたら嬉しいし、「あなた以上に私はできなかったんですよ」って伝えてあげたいですね。虫は湧いてないでしょって。(笑)

(モノも心も、自分らしく整理収納を。)

最後に、今後の夢や挑戦したいことってありますか?

今長:先ほどの話と重なりますが、モノが溢れているこの世の中で、整理収納を通してお客様自身の心を整えていくこと。そして、その中で不要になったモノを必要な人に回すこと。少しずつかもしれないけれど、そういった形で社会貢献ができればいいなぁと思います。

あと、廃校する学校の片付けのお手伝いもやってみたいですね。そこにあるモノが、モノとしての役割をしっかりと終えられるように。

実現できるかどうかは別として、夢だけでかいです。(笑)

(未央さんが捨てられない、大切なモノ。)

このインタビューの後に仕事をこなし、家路についた僕。暗い部屋に明かりを灯すと、寝る前に遊んだおもちゃや絵本が散らばり、そして片隅には綺麗に畳まれた洗濯物。2人を起こさないようにごはんとお風呂を済ませ、洗濯機のタイマーをセット。疲れ果てた身体を布団に投げ出して眠りについて、気付けば朝を迎えていた。

— 私はビビりだから、終わった後に「大丈夫でしたか?」って聞いちゃうんです。

夢だけでかいと語った未央さんは、はっきりとした意思を持ちながら相手への敬意を忘れない。遠慮がちに語った夢も、きっと誰かの手を借りながら実現するし、その中で直面する困難さえもドラマにしてしまうだろう。

僕には、そんな度胸も優しさもないけれど。

鏡に映る寝ぐせが、今日だけはちょっぴりおとなしかった。


取材対象者整理収納アドバイザー・今長 未央 さん
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長野 大生

Text by...

asofuku.com編集長。長崎駅前のコワーキングスペースのスタッフとして働く傍ら、地域コミュニティchiicoLab.の運営に携わっています。その他、長崎のローカルメディア「ボマイエ」や「ナガサキエール」などでライターとして活動させていただいています。

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