現在、僕は「竹口亭 ホワイトボード」という芸名のもと、ホワイトボードをつかった落語「ホワイトボード落語」による慰問活動をさせていただいている。
先日、ありがたいことに、職場であるデイサービス施設のレクリエーションの一環として、利用者さんに向けてホワイトボード落語を披露する機会をいただいた。
披露したネタは、古典落語が原作の「釜泥」。
江戸時代に頻発した”釜泥棒”をつかまえるために、豆腐屋のおじいさんが夜な夜な釜の中にかくれ、釜泥棒とたたかう。その様子を面白おかしく描いた、傑作中の傑作だ。
そんな傑作の秀逸さに救われながらも、なんとか利用者の皆さんにホワイトボード落語による演出を楽しんでいただくことができた。
そして終演後。
ふいに、90代のおばあちゃんが僕に話しかけてくれた。
「わたしが3歳くらいのころやったかな。家の釜の中に入って家族と遊んでたんだけど、そのことを竹口さんの落語のおかげですごく久しぶりに思いだせたよ。ありがとうね。」
それを聴いて、僕は泣きそうになった。
”回想法”といって、昔の物事を思いだしたり、写真をみて話したり、懐かしい歌を聴いたり、歌ったり…そうすることで脳を刺激し、認知症の予防をはかるというリハビリの技術がある。
——90代のおばあちゃんの、3歳くらいの記憶を掘りおこすことができた。
本当にまだまだな腕前だけど、ホワイトボード落語を介して、まさに自分なりの”回想法”を実践できた瞬間だった。
僕の中で膨らむ”回想”といえば、昔から至らぬことをして親に迷惑をかけた日々ばかりだ。
しかし、このあいだ帰省したときに今回のことを親に話すと「すごいね」と言ってくれた。
これからもこういうことを積みかさねると、親に少しでも喜んでもらえるのかな、という思いにつながった。
迷惑をかけたころのつぐないじゃないけれど、これからの自分なりの、少しばかりの親孝行として。