「ひいじいちゃんに賞状を見せるんだ。」


小学6年生の秋、日に日に病状が悪化する曽祖父の姿を見ていた当時12歳の私は、市内の同学年が一堂に会するスポーツイベントでの優勝を誓った。


しかし、曽祖父は大会の2日前に眠りにつき、私は出場した100m走で100分の2秒差に泣いて惜敗。僕が頑張った姿を見せればきっと元気に…。その純粋無垢な想いが実ることはなく、準優勝の賞状を持って遺影の前で手を合わせ、なんとも複雑な気持ちで曽祖父母の家を後にした。


― あの日から、13年もの年月が流れた。


いつものように仕事を終え、イヤフォンを耳につける。なんとなくシャッフルしたライブラリから流れてきたのが、レミオロメンの“紙ふぶき”。13年前のあの日、私が帰りの車でなんとなく聴いていた楽曲だ。



CDバブルと呼ばれた80年代後半~90年代のど真ん中に生まれた私は、CD、MD、SDと、みるみるうちに大きな進化を遂げて小さくなっていく音楽に囲まれて育ち、今では聴きたい楽曲を声に出すだけで手に取れる時代を生きている。“あの頃”を回想することも簡単になってしまったこの時代で、聴きたい曲が聴けないという状況に陥ることはそう多くない。


街を歩けばイヤフォンをつける人たちがほとんどで、音楽フェスもすっかり長崎の夏を彩る風物詩のひとつになった。それぞれが好きな音楽に触れ、楽しんでいるはずなのに、看板を下ろすライブハウスや楽器店は後を絶たない。そんなことに違和感を覚えてしまう。


音楽シーンに精通しているわけでもない私には「音楽の大量生産・大量消費が叫ばれている」とか、「CDが売れない時代だ」とか、そういった話は正直難しい。だけど、同じ街で生まれ育ったシンガーソングライターや、同じ学校を出たロックバンドみたいな些細なことで親近感を感じてしまうほどに単純で、故に応援したいとさえ思うのだ。


そんな中、昨年夏にHafH Nagasaki-SAIで行われたボマイエ交流会で、「アパレルショップで働きながら、シンガーソングライターをやっています。」という方に出会った。


スッキリとした話し口調が印象的だった彼は交流会の途中で帰ってしまったのだが、気になった私は、交流会後にすぐさま彼の音楽を検索。そして、何気ない日常に垣間見える愛を歌った楽曲と、爽やかで透き通る声にすっかり心を奪われてしまった。


afternoon / 林幸之



今回は、じわりじわりと衰退していく地元の音楽シーンに一石を投じる男、歌って服売るライフコーチ・林幸之のストーリーに迫る。



長野:今日はよろしくお願いします!


林:こちらこそ、よろしくお願いします!


長野:幸之さんとの出会いはボマイエ交流会でしたよね。「シンガーソングライターをやっています。」と仰っていたのがすごく印象に残っていて。はじめに、音楽を始めたきっかけを聴かせていただけますか?


林:僕が高校2年生の時に、親の知り合いから古いギターをもらって…というか、唐突に家にギターがやってきたと言いますか。(笑)それからというもの、1日に何時間も没頭するほどのめり込んでしまって。


長野:ありがとうございます。実は幸之さんとお会いした後にYouTubeに掲載されている動画をいくつか拝見していて…隠れファンだったんです。(笑)


林:いやいや、もう。公言していただいて。(笑)


長野:ご自身の曲も当時から作っていたんですか?


林:ギターに出会った頃は、楽曲制作よりもシンプルに「ギターが楽しい」という気持ちで弾いていましたね。その頃は通信制の高校に通っていたので、学校は日曜日だけ。平日は自分の時間が確保できていたので、バイトして、帰ってきて、勉強しつつギター弾くみたいな繰り返しでした。

それから暫くして、「自分で働いたお金でギターを買いたいな」と思って。ギターを買いに行ったお店の方がライブハウスのオーナーさんと知り合いだったんですけど、「ライブに挑戦してみない?」って言ってくださった。オリジナルの曲はなかったのですが、「やってみたいです!」と即答したことを覚えています。


長野:今の話って、ぜんぶ長崎での出来事ですか?


林:もちろん!「Studio Do!」ってご存知ですか?


長野:よく行ってました!


林:そこのオーナーさんに紹介してもらってって感じですね。いま、復活プロジェクトが動き出していますよね。


長野:私もTwitterで見かけました。Twitterと言えば、幸之さんの活動のひとつに、∞Nagasakiというものがありますよね。いったいどんな活動を?


林:アーティスト、もしくはアーティストを目指している人たちが、自立的、そして主体的に行動できる力をつけて、自らの力でエンタメを創って、届けて…。そういうことが出来る人たちを増やしていく活動です。


長野:コミュニティとは少し違いますか?


林:そうですね、コミュニティとはちょっと違っていて。どちらかというと、「教育」に近いと思います。但し、そこにお金は発生させてなくて、本当に自分自身が好きでやっている活動になりますね。


長野:なるほど。なぜこの活動を始めようと?


林:僕が夢中で音楽をやっていた時期に、周りの先輩たちが「仕事が…」「結婚したから…」「解散したから…」という理由で辞めていっちゃう光景を見てきた。僕個人としては、生活環境が変わったからと言って音楽を辞める理由にはならないんじゃないかと思っていたので、その程度の思いで音楽をやってたのかなって。凄く残念に映ったんです。

じゃあ、何でその人たちが続けていかないのかなと考えたときに、仕事が変わって、生活サイクルが変わって、それが原因で練習量が減った人もいれば、「アーティスト活動するんだったら、メジャーを目指さないといけない」という考えの人が居たりもして。


長野:事情や価値観は、それぞれありそうですね。


林:僕も昔は「メジャーを目指さないと」という考えがあったけど、それ以上に音楽そのものを続けて、それを生活の中心にしたいという思いがあった。なので、僕の中では音楽で日本に名を残す必要はあんまりないんです。

僕自身が∞Nagasakiの活動を続けていくことで、これからの若い世代が音楽を始めるきっかけ、高いところを目指すきっかけになれればいいなと思っています。今の長崎は、そういう機会、人、場所、環境がすごく少なくなってきていると思うので。


長野:私も、色んなコンテンツを持った人たちが集まって、その活動を広く知ってもらって、異なるジャンルの人たちがうまく融合することで地域が盛り上がるんじゃないかっていう活動に関わっています。そういう意味でも、幸之さんはご自身の活動や経歴を言語化して発信してくださっていたので、すごく親近感を感じていました。

私は、それぞれが持つコンテンツも勿論だけど、その人自身のストーリーやマインドも含めて魅力だと思っていて。後押しをしたいと言えば凄くおこがましいんですけど、私が感じた魅力を1人でも多くの人に知ってほしいなあと思っています。


林:うんうん…素晴らしいっすね。



あたりまえが降り積もったら / 林幸之



長野:具体的には、どういった動きをされているんでしょうか?


林:最初は割と哲学的で、「あなたが音楽をやりたい理由って何?」ってところから始めます。もちろん、多くの場合は「音楽が好きだから。」それから深掘りして、好きになった理由を聞いていくと、それぞれのストーリーが必ずあるんです。

じゃあ、そのストーリーの中から、あなた自身がどういう曲を作っていけば自分のステージが輝くのか、どんな方法があるのか。そして、その中で難しい場面で僕らはどんなアシストが出来るのか…という感じですね。


長野:まずは相手を知ることから、ですね。


林:なぜそれをやりたいのか。なぜ自分でなければいけないのか。その理由が明確になることで、その人自身の軸が生まれる。そして、その軸の中でできることを模索していく。

例えば、「親父が昔からメジャーで名を残すことに憧れていましたが、事情があってその夢が絶たれました。その話を親父からずっと聞いているうちに、いつしか自分の夢になりました」と。

分かった、じゃあそれを題材にした曲があるといいかもね、とか、いま話してくれたことをホームページで公開するのもいいかもしれないね、みたいな。先ほどは「教育」と表現しましたが、「一緒に考えていく」という表現が正しいかもしれません。先生と生徒じゃなくて、仲間みたいなイメージですね。


長野:同じ目線で向き合ってくれる仲間の存在というのは大きいですよね。相談されている方も安心しているのでは…。


林:いま、めちゃくちゃ頑張ってくれている大学生が居て、その子に会うたびに僕が刺激を受けているんです。僕なんてまだまだだなって。この活動を続けていくことは、相手にとってもそうだけど、僕自身にとってもプラスになっていますね。


長野:活動を通してお互いのプラスになっているところは、本当に素敵なことだと思います。私がイメージしていたのは、もっと物理的と言うか…。幸之さんたちが実際に現場で支援する形なのかと思っていました。


林:パッと見、そう見られることも多いですね。今やスマホ1つで動画も音楽も配信できて、配信することでお金だって貰える時代。なのに、そういったツールを利用して主体的に動いていこうという人たちが長崎には少ない。

もちろん探せば居るんだろうけど、自分からムーブメントを起こせる人が増えていけば、地域社会もエンタメにもっと寛容になると思うし、長崎のエンタメシーンはもっと盛り上がると信じています。今はすごく小さな活動かもしれないけど、地道にコツコツ続けていくことで、いつしかそういう街になればいいなあと思っています。


長野:ありがとうございます。幸之さんご自身の音楽活動の今後についても教えてください。


林:僕はギターを持って弾き語りをするスタイルなんですけど、そういう人たちは日本中に何万人もいるんですね。それだけじゃ面白くないなと。今はアパレルで副店長をやったり、コーチングの仕事もさせていてだいている。まだまだぺーぺーだけど、それなりにノウハウはあるし、喋ることも得意な方だと思っています。なので、曲中にプチセミナーをやっちゃおうかなあと。1番を歌って、それからギターで伴奏をやりながら喋るみたいな。(笑)


長野:ええぇ!?


林:もちろん、そこから20分も30分も話すわけではなくて、ギターを鳴らしながら1曲の中でやるっていう。カバー曲でもいいと思う。その曲のタイトルや歌詞にある言葉を引用したり、そういう切り口も面白いんじゃないかなと思って。実は曲の制作も少しずつ始めているんですよ。


長野:新しいですね…見てみたいです!


林:今は歌って服売るライフコーチですが、そのうち弾き語り講演家として、ライブで演奏する中で1曲だけやってみたり、それをYouTubeで配信してみたり…そうやってチャレンジしていきたいと思っています。




まだ「歌って・服売る・ライフコーチ」の「歌って」の部分しか聴いていないにもかかわらず、とてつもない熱が電話越しにヒシヒシと伝わってくる。

生まれ育った街の現状を憂い、悲観することは簡単だと思う。だけど、それを真正面から受け止め、真摯に向き合う人のエネルギーに勝るものはないだろう。

彼は、私の拙いインタビューに対しても真摯に向き合い、応えてくださった。



長野:服を売る仕事との出会いを教えてください。


林:僕は学生の頃から古着屋を巡るような、とにかく服が好きな少年!みたいな感じだったのですが、特段「ショップ店員になりたい」とかは特になくって。3年前に転職先を探していて、タウンワークを見て直感で決めたって感じですね。


長野:意外にも直感で…!転職先がアパレルだったんですね。


林:それまではずっと営業の仕事ばかりをやっていました。仕事を選ぶ理由と言えば、お給料がいくらだ、休みは多いのか、福利厚生が充実しているのか…とにかく「条件」で選んでいたんですが、僕の場合はそうやって選んだ職場はなかなか続かなくて。しまいには、転職した先で物凄いパワハラに遭って、鬱っぽく…というか鬱になって。5ヶ月くらい仕事をしていない期間も経験しましたね。

だけど、その時はもう結婚してたし、やっぱり仕事しなきゃいけないと。「転職先でまたパワハラに遭ったら怖いな」と不安を感じつつ、タウンワークをぱらぱらとめくってたら、ショップ店員の募集があったんです。その時に奥さんが「やってみたら何か変わるんじゃないの?」と背中を押してくれて、自分でもそう思えたので。それがきっかけで今の職場になった。


長野:営業職の頃と比べると、全く異なる仕事の選び方ですね。


林:結果、ガラッと変わりましたね。それまで沈んでいた自分が嘘みたいに。好きなことを仕事にできたというところで人生が変わった、そう思っています。


長野:ライフコーチというお仕事では、いま話してくださったような、幸之さんが経験してきたことを相手に伝えていくっていうイメージになるのでしょうか?


林:SNSのプロフィールに「ライフコーチ」って書いちゃいるんですけど、実はそんなたくさん仕事を受けているとかではなくて。コーチングをしたい人、受けたい人をマッチングさせるサービスがあって、それに登録している形になります。電話やビデオ通話を通じて、週に1度くらいのペースで、2,3人に対してコーチングをしているという感じですね。


長野:そんなサービスがあるんですね!


林:僕もネットでたまたま見つけて。これまでの自分の経験、好きなことを仕事にしていくという部分では、凄く喋れる自信があったので。それを他の人に提供できたらと思ってふわっと始めた結果、今に至ってます。


長野:ありがとうございます。幸之さんは、好きなことでいきていくをテーマにした動画をYouTubeで発信されていますよね。いまお話しいただいたように、幸之さん自身が身をもって経験してきたことを伝えられているな…!という印象が強く伝わってきます。私自身、あの動画を観て元気をもらっている1人なんですが、どんな人に一番に伝えたいですか?


林:それはもう、圧倒的に過去の自分ですね。パワハラで鬱になった時の自分、学生の時にめちゃめちゃいじめに遭っていた自分。「過去の自分」が「今の自分」を見たときに、僕でもこういう人生を歩んでいけるんだなと思うだろうし、何よりそういう風に見える自分でありたいなって。


長野:私は音楽はやっていませんでしたが、学生の頃から好きなことに夢中になりすぎて周りとの距離を感じたりすることがあって。幸之さんの動画を観て、「あー。好きなこと、続けていいんだ。」って安心してます。(笑)


林:ありがとうございます。(笑)そういう意味で言うと、今の動画の内容は普遍的というか、「知ってる知ってる、当たり前」みたいなことを喋ってて。これからはもうちょっと、自分ならではの内容に変えて、配信頻度も上げていきたいと思ってますね。


長野:自らの考えを徐々に反映させて…という感じですね。


林:YouTubeの方は収益化を全く考えていなくて、あくまでTwitterと同じようなツールの1つだと思っています。今はコーチングっていう部分でパッケージ化した商品の構想があるので、そういった部分に繋げていきたいですね。




長野:幸之さんには、聴きたいことを見透かされているようです。良い意味で圧倒されまくってます、いま。(笑)


林:こんなに喋っちゃって大丈夫ですか?(笑)


長野:大丈夫です!10000字越えたら分けます!


林:ではお言葉に甘えて…!


長野:それでは、最後に歌って服売るライフコーチについて、思いの丈を聞かせてください。


林:先ほど話した内容と重なりますが、仕事はもとより、人生をつまらない条件で選んでいた「過去の自分」には、好きなことや得意なことで人生を選んでいる「今の自分」がどう映るだろうか。それが僕の根底にあります。

そして、僕が思い描く理想のライフスタイルは、時間に囚われないこと。

朝起きて、ゆっくり朝食を食べて、ジムに行く。それからシャワーを浴びて、買い物に行って、ようやく仕事行く。夜になると∞Nagasakiの活動をやって、お酒を飲んで、寝る、みたいな。僕は、好きなことを続けていく中で、そこまで到達したいんです。

アパレルに出会って、なぜ洋服が好きなのかを改めて考えてみたときに、内気で、インドアで、勉強も運動も苦手な過去の自分が浮かんだ。それと同時に、そういう自分でも、洋服を着ることでカッコいい自分になれるんだと思えた。

そして、自分の精神が安定した時に長崎の音楽シーンに目を向けると、昔と何も変わっていないことに気付いた。人も減って、お店も減って、音楽で地域を盛り上げようという声さえ聴こえてこない。まじでやばいなって。

そんな思いで立ち上げた∞Nagasakiの活動を続ける中で、「過去の自分」が「今の自分」を目標にできるように、誇れるように。そして、そう思える人たちが増えていくことで、長崎のエンタメが盛り上がっていくように。

僕たちは1人1人と出会って、その人たちのストーリーを知る。そして、それぞれのストーリーを自ら発信することが出来るようになれば、人は巻き込める。そういう意味でも、∞Nagasakiでは、それぞれが自分自身と向き合うための時間を作っていこうと。

みなさんには、自分の好きなことを突き詰めてほしいし、自ら行動を起こせる人であってほしい。1年で1人ずつでもいいから、そんな人が増えることで環境が整っていく。エンタメに触れる機会が増えていく。そうやって、地域社会がどんなときでも盛り上がれるように。それこそが∞(むげん)の希望であり、未来を創っていけると信じているので。

僕は、死ぬまで続けていきたいです。




幸之さんの爽やかな声も相まって、終始和やかなムードで進んだインタビューを終える。


好きなことでいきていくことを、いとも簡単に体現しているように見える彼の根底には、大きな挫折と苦難に真っ直ぐと向き合い、自らの力で越えてきたという∞(むげん)のエネルギーがあった。


私たちがまず向き合うべきは、生まれ育った街の現状ではなく、自分自身なのかもしれない。




▼林幸之について
「好きなことでいきていく」をテーマにした情報発信を行う弾き語り講演家。アパレルショップで服を売り、ギターを持って歌を歌い、自らの経験を活かしてライフコーチを行うなど、様々な分野で活躍中。更に、地域活性化音楽&エンタメプロジェクト・∞Nagasaki(インフィニティながさき)の代表を務めている。

▼林幸之に関するリンク
ホームページ
Twitter
Instagram
YouTube

▼∞Nagasakiに関するリンク
ホームページ

※YouTube、SNS等では林孝行の名前で活動されていますが、本記事についてはご本人の意向も配慮し、本名の林幸之で記載させていただいています。



▼ライター(長野 大生)について
中学生の頃に動画制作の魅力に惹かれ、社会人となった2019年にYouTubeチャンネル「遊ぶ門には福来る。」を開設。その後、当サイトを開設するなど、ローカルメディアを中心に活動の幅を広げています。

▼主な活動内容
・YouTubeチャンネル「遊ぶ門には福来る。」クリエイター
・Webサイト「asofuku.com」編集長
・ローカルメディア「ボマイエ」ライター
・地域コミュニティプロジェクト「n-space」プロモーター

長野 大生

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中学生の頃に動画制作の魅力に惹かれ、社会人となった2019年にYouTubeチャンネル「遊ぶ門には福来る。」を開設。その後、当サイトを開設するなど、ローカルメディアを中心に活動の幅を広げています。

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