— お父さんとお母さん、今年で結婚50周年みたいさねぇ…。


今年の2月ごろ、実家の母と電話をしているとそんな話になった。つまり私の祖父母になるわけだが、なんと半世紀もの間、苦楽を共にしているらしい。孫の私が25歳なのだから当然と言えば当然かもしれないが、半世紀という言葉で表現すると、かなりの年月を感じざるを得ない。本当に凄い。


— なんか記念になるものやりたかよねぇ。ちょっと考えてみるよ。


その日は、そう言って電話を切った。


それから1ヶ月。

「ちょっと考えてみるよ」というのは私の決まり文句のようなもので、ほとんどの場合がちょっとも考えずに終わってしまう。何ともわるい癖だ。

今回は何のスイッチが入ったのか、このちょっとを怠らなかった。

しばらく色んなことを考えてみたけれど、無意識のうちにおいしい食べ物は喜んでもらえるプレゼントと教えられて育ってきた私の思考は、いつものように清香園に連れていく買い物帰りにケーキを買って帰るかの二択に絞られていく。しかし、例のウイルスが蔓延る今回ばかりはそれも難しい。

なにより、自分が食べられない。

一体、どんな環境で育ってきたのか。親の顔を見てみたくなったが、それを順番に辿っていくと自ずと祖父母に辿り着いてしまう。堂々巡りも甚だしい。


そんなとき、ふと頭に浮かんだのがTANOさんだった。




別の依頼の連絡をしようとしていた頃だったからかもしれない。本題の依頼を伝え「これは完全に私個人のお願いなんですが…」と相談させていただき、親の親の顔を送り付けた。

それからこちらの希望を丁寧に聴いて、構想が固まるや否や圧倒的なスピードで素敵な似顔絵を描いてくださった。完成した似顔絵と、その時のエピソードについては後ほど…。



エフエム諫早、FMひまわり(島原市)などのラジオや、ヨジマル!(KTN)、news every.(NIB)、Pint!(NBC)などのテレビ番組にも出演し、長崎の電波をジャックしようとしている彼は、まさしくメディアバブルを迎えている。

長崎新聞でのインタビューも記憶に新しいが、今回はasofuku.comの視点から彼の話を聴かせていただいた。(テレビやラジオは視聴できませんでしたが、長崎新聞の記事がとっても分かりやすかったです…!)




長野:今日はよろしくお願いします!


TANO:よろしく!開始する前から脱線してたね。(笑)


長野:キャンプネタがもう。(笑)

TANOさん、メディアバブルが来てますね…!色んな方から依頼が来てると思うんですが、今は似顔絵以外の仕事も受けているんですか?


TANO:子ども向けの絵画体験教室と、似顔絵スクールをしてるね。最近は外に出られないから、技術的に学びたいって人に対してオンラインでやったりとか。


長野:例のウイルスの影響ですね…。オンラインと言うと、対面でやるんですか?それとも、TANOさんの描いた作品を見せながらとか?


TANO:詳しく話すと順番があって。例えば、今日のお題は俳優の〇〇さんなので、自分が思うその人の特徴ベスト3を(言葉で)書いてください。輪郭なのか、目元なのか、はたまた口元なのか。それを明確にして、言葉としてまとまったら、その特徴を誇張して実際に描いてみてください、みたいな感じで繰り返していく。


長野:なるほど…。回数を重ねて学んでいくんですね。絵画体験教室の方はどんなことを?


TANO:大村でご夫婦でやってる風の子絵画教室っていうのがあって、元々保育園とか学童保育の外部指導をやってるんだよね。独立したばっかりのときに声を掛けてもらって…。ぜんぶ独学だったから不安しかなかったけど、とりあえずやっちゃえ精神で受けた。いざやってみるとドハマりして、あれ?似顔絵より楽しくね?ってなっちゃって。(笑)


長野:TANOさんがどっぷりじゃないですか!


TANO:ほんと。子どもは純粋で、上手く描こうとかしない。ただただ欲求のままに描くから、そこでこの色使う!?みたいにドキッとさせられることが多い。子どもって面白いなって。

それと同時に、当たり前って言葉を使いたくないと思ったんだよね。

今まで平気で使ってきたけど、これが当たり前だっていうのは他人には分からない。当たり前っていうのは凄く怖い言葉で、受け入れることを拒絶したり、その人を否定する言葉になりえるっていうことを、子どもたちから教えてもらった。


長野:以前、TANOさんは似顔絵に正解はないっておっしゃってましたよね。


TANO:もちろん、仕事にするのであれば技術は必要。まず基盤になる技術があってこそのオリジナリティだったり、表現だったり。白黒でしか描かないとか、髪の毛はレインボーでしか描かないとか、ブロリーみたいにしか描かないとか。


長野:ブロリー!?


TANO:そうそう、インスタでめっちゃ人気なんよ。カジサックファミリーもみんなムキムキになってた気がする(笑)



インタビュー中に調べさせてもらった。このようなタッチの似顔絵を「劇画調似顔絵」というらしい。極太の首と白目が印象的…。



TANO:自分がイメージしたものを表現できて、そこにファンが付けば、それはもう成立している。これが、この似顔絵を描いた人の正解の形。結局、知ってもらわないと価値が生まれないし、世界一のクオリティだけど10人しか知らない絵と、世界で二番目のクオリティだけど世界の7割の人が知ってる絵だと、どっちに価値があるか。ここまで子どもたちに考えさせてしまうと、紙いっぱいに描いていいんだよっていう大胆さは育まれないしね。めっちゃ長くなりそう。(笑)


長野:それ、毎度言われます。(笑)


TANO:結局、絵って自己満なんだよね。「描けた、満足~!」が普通なわけで、最近はTwitterとかInstagramとか、見てもらえるツールがあるからファンが増えたりもする。


長野:たしかに、TANOさんに出会ってなかったら、似顔絵を描いてもらおう!とは思わなかったです。福岡の商業施設とか行ったら、出店されてる方って見かけるじゃないですか。対面で座って、時間を使って頼むっていうのがどうも気乗りしなくて。


TANO:うんうん、めっちゃ分かる。俺としては、対面で急いで描かないといけないのかが不思議でね。お客さんと会話しながら意識が散漫した状態で描いても、ベストコンディションじゃない。それが当たり前の人たちは何とも思わないかもしれないけど、お客さんにも絵にも気を遣いながら描くより、自分が集中できる環境で描きたいなって。


長野:タイムアタックみたいな感じがしますよね…。


TANO:もちろん出店したらその場で描くけど、座るための椅子は取っ払ってる。椅子がある分、寄ってきてくれるお客さんとの距離が出来てしまうし、手が伸ばせる位置まで来てもらえることで「LINEでもやってます~」ってチラシも渡せるからね。


長野:そうなんですよ!興味はあるけど、座ったら逃げられないなって。


TANO:まさにそれ!俺も座られたら困るしね。(笑)

ここにずっと座ってるくらいなら、出店してる色んなお店を見てもらった方が楽しいだろうし。「出来上がったらLINEしますんで」って伝えておけばお昼ごはんも食べに行けるし、お客さんもLINEで気軽に確認ができる。


長野:間違いなく、拘束されないのはデカいです。


TANO:イベントってやっぱり土日が多い。そう考えると、休日の家族の大切な1時間を拘束することになってしまう。それで急いで描いてクオリティ低かったら、結構ムカつくやん?


長野:ムカつきます。(笑)


TANO:独立する前に、他の似顔絵師さんがどんな感じで仕事をしてるのかって見に行ったんだけど、みんな下向いてるわけ。携帯いじったり、本読んでたり。申し訳ないけど「あー、絶対勝った」と思って。その時は、いまに比べたら絵のクオリティはまだまだだったけどね。


長野:それが3年前の話ですね。


TANO:そうだね。それまでガソリンスタンドとか、洋服屋さんとかで働いてきたけど、そこで培われた経験っていうのは全部生かされてる。洋服屋さんに勤めてるときは女性のお客さんが多かったから、女性ファッション誌を片っ端から読み漁って勉強してたし。自分が楽しむための努力は好きなんだよね、多分。興味ないことは一切興味ないけど。(笑)


長野:TANOさんが興味あることと言えば、キャンプとかキャンプとか…。



仕事にどうしても集中できないときには、キャンプに行って気分転換をしているそう。ここから彼のトークは切れ味を増し、キャンプだけでトータル30分は使った気がする…。(あまりに楽しそうに喋るので、ついつい私まで乗ってしまいました。)



TANO:ごめん、また脱線した。(笑)


長野:割と人見知りする方なので、カタい話よりそっちの方が嬉しいです。


TANO:そうなんだ!おなじおなじ。


長野:絶対人見知りしないでしょ!(笑)


TANO:俺も元々人見知りよ!だけど、勿体ないなって感覚になってきてね。アメトークの録画を何十回も観て、ラジオ感覚で聞き流して勉強したもん。そしたらお客さんがたまたま同じボケをして、ナチュラルに突っ込んだらドッカンウケてね!それから完全に味しめたよね。(笑)


長野:スピードラーニング的な。営業もそんな感じですか?


TANO:独立した頃はね、居酒屋さんめっちゃ回って、大将の似顔絵を無料で描きまくって、それに連絡先書いてトイレのドアの内側に貼らせてもらった。そしたら、トイレを使った常連さんが気付いて「大将、見られてる感じがしてまじ嫌なんだけど」って興味持ってくれたり。大将は似顔絵を描いてもらうっていう体験をしてるから、お客さんにも勧めてくれる。それから紹介が繋がって個人のお客さんも増えていったかなあ。


長野:あと、納品も可能な限り手渡ししてるとか…。


TANO:お客さんの手に届くまでは我が子!っていう考え方だし、やっぱりリアクションを見たい。たまに「私佐世保なんですけど…。」なんて言われることもあるけど「全然持っていきますよー!」って。今は多少難しいけど、そこまでしてこそのサービスかなって思ってる。似顔絵のクオリティはもちろんだけど、描いて送るだけなら誰にでもできるからね。


長野:たしかに、描いて送るだけだと値段で選んでしまう気がします。


TANO:独立したときの価格はいまの半額くらいで、当時はクレームが多かった。でも、絵じゃなくて作家さんに対してお金を払ってる人は「TANOさんに頼んでるから、あなたの100%を表現してくれたらいいよ」って言ってくれる。もちろんお客さんの希望にも沿いたいから、イメージを聴いて、描いて…。そうやって、感謝の声をいただくことが多くなってきたね。


長野:似顔絵がプレゼントの選択肢になったのも、間違いなくTANOさんに出会ったからだと思ってます。


TANO:あざます!(笑)


長野:これから挑戦したいことはありますか?


TANO:最近だと、紙に描いた似顔絵とデジタルの技術を混ぜたコラボみたいなことも企画してる。スマホを似顔絵にかざしたらそれが動いて喋ったり、浮き出てきて2ショット撮れたりとか。似顔絵が喋ったりはもちろんだけど、それをスキャンしたら動画が観れるって言うのをウェディングでやりたくて、ARの技術を持ってる人を探してたら、chiicoLab.にいたんだよね。


長野:chiicoLab.に入る前から、構想はあったということですか?


TANO:そうそう!やりたかったけど、ARの技術を持ってる人が周りに居なくて。ようやく形になってきたから営業かけている最中だね。例えばチラシ作って、それをスキャンしたら営業の人が全力で商品の紹介をするとか。手に取れるポケットYouTubeみたいなイメージかな。「え、あの真面目な営業さんこんなテンションで喋るんすか!?」みたいなものとか、モデルルームを回って「部屋のどこかをスキャンしたら当たりの動画が流れます。それを見つけられたら、こういうサービスをつけますよ!」とか、宝探しみたいな遊びがあってもいいんじゃないかと思ってるよ。

https://twitter.com/Jarth18/status/1228090146290982913?s=20


「いきなりの導入は難しいかもしれないけど、テストだけでも使ってくれたら嬉しい」と語るTANOさん。ポスターの中で花火が打ちあがっている。凄い…!




長野:今回、一番聴きたかったのが「思い出に残ってる仕事」だったんですけど、長崎新聞さんにしっかり書かれていました。(笑)


TANO:いま思えば、当時の俺にはスペシャルヘビーな依頼やったね。とにかく一生懸命描いて、渡すときに涙ぐんでくれて…。親族に不幸があったっていう中での依頼だったから、こういう表現をしたら良くないかもしれないけど、鳥肌が立った。俺の絵ってこんな価値があるんだって、素敵な勘違いを起こしまして。(笑)


長野:素敵な勘違い。(笑)


TANO:それがきっかけで「似顔絵を仕事にできたらいいな」と思って調べたら似顔絵検定があるって知って。6級から1級まであるんだけど、じゃあとりあえず真ん中の3級受けて、受かったら本腰入れてみようみようと。そしたらすんなり受かって。


長野:すごい!一発で!


TANO:ちょうどその頃、友だちから「佐世保によく当たる占い師がおるよ」みたいなことを教えてもらっていて、とにかく何かにすがりたかったんだろうね。すぐその人のところに行った。名前と生年月日書いて「今日何の相談?」って言われて「仕事のことなんですけど…」って言ったら、間髪入れずに「独立、独立。さっさと一人でやりなさい」って。俺、そんなこと言われたらすぐその気になるからね。


長野:占い師もすごいな…。


その後、2級の試験にも無事合格して独立を果たしたTANOさん。



長野:最後に、似顔絵を通じて伝えたいことを教えてください。


TANO:似顔絵師になるまでは、こっちから提案して商品を売っていた。もちろん楽しかったけど、その中に苦しさもあって。似顔絵師っていう仕事は、似顔絵を求めている人しかこない。

その中で「こういう感じでお願いします」「分かりました、描いておきますね」で終わるんじゃなくて「こういう表現もできます」と提案をして、お客さんにある程度のイメージを持ってもらう。

描くのは自分だけど、作るのはお客さんと一緒に。そうすることで、お客さんにとって「TANOさんの作品」が「TANOさんと作った作品」になるから、ただ単純に描いてもらったよりも嬉しさが増すし、似顔絵に対する思い入れも深くなる。そういった気持ちを体験してほしいし、似顔絵ってこんなに素晴らしんだよっていうことを伝えたい。

そして何より、アートの仕事でご飯を食べることが当たり前になってほしい。俺が1つのビジネスモデルになって経験を伝えてあげることで、今後それを目指す子たちのリスクも減らせる。アートを仕事にできる環境をもっと作りたいし、それを目指す人も増えてほしいなって思ってるよ。


長野:素敵な言葉が凝縮されていて、いま戸惑っています…。


TANO:真面目なTANOさんになってしまった。(笑)


長野:chiicoLab.って、これが面白いんですよね。自分が知らない世界をどんどん知ることができるので。インタビュー、本当に楽しいです。


TANO:実は昨日、竹口くんからメッセージがきたんだよね。話してみると、同級生で、しかも共通の友だちが居て。仲良くなれたし、外出できるようになったらさし飲み行きましょうよって話になったし。そうやって色んな繋がりができるっていいよね。ヤバい、ここからまた20分くらいしゃべりそうになった。(笑)


長野:TANOさんさえよければ、ぜひ!!(笑)



さて、それから1時間近く会話が続いてしまったことはさて置き、ここからは祖父母の似顔絵を描いていただいたエピソードを少々…。


こちらが実際に描いていただいた作品と、私の祖父母。

今回、TANOさんには祖母の大好きなドラクエ祖父の大好きな焼酎のイラストをお願いした。理由は、お互いにとって少々後ろめたい好物だからだ。

祖母がボケ防止と銘打って始めたドラクエは、祖父が仕事に行っている間だけのお楽しみだ。決して隠しているわけではないのだが、祖父のバイクの音が聞こえると物凄いスピードで片付ける。もちろん、祖父の帰宅に合わせて食卓の準備は整っているのだが、ソファに座ってゲームをしている姿をしっかり見られるのは気が引けるのだろう。

対して、祖父は毎晩のように焼酎を飲んで、舌が回らなくなっては祖母に「何て言いよっとね」と怒られ、次の日には会話の内容を忘れてしまう。酔って気分が良くなった頃の会話は他愛もないものばかりだし、この年まで働いてくれているのだから誰も文句など言わないのだが「覚えとらんさ~」と家族に笑われるたびに、下手くそに舌を出して笑う。

TANOさんに面白おかしく表現していただいたイラストを、どんな思いで、どんな気持ちで見ていたのだろう。その気持ちは本人のみぞ知るところかもしれないが、私たち家族は、伝えても伝えきれない感謝を込めてプレゼントした。

もう、やりたいこと我慢しなくてもいいんだよ。
長生きしてくれれば、それで。



▼似顔絵art-TANO-について
諫早市を拠点に活動する、長崎県初の協会公認プロ似顔絵師。

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▼ライター(長野 大生)について
中学生の頃に動画制作の魅力に惹かれ、社会人となった2019年にYouTubeチャンネル「遊ぶ門には福来る。」を開設。その後、当サイトを開設するなど、ローカルメディアを中心に活動の幅を広げています。

▼主な活動内容
・YouTubeチャンネル「遊ぶ門には福来る。」クリエイター
・Webサイト「asofuku.com」編集長
・ローカルメディア「ボマイエ」ライター
・地域コミュニティプロジェクト「n-space」プロモーター

長野 大生

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中学生の頃に動画制作の魅力に惹かれ、社会人となった2019年にYouTubeチャンネル「遊ぶ門には福来る。」を開設。その後、当サイトを開設するなど、ローカルメディアを中心に活動の幅を広げています。

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  1. […] なんとなく始めたYouTubeがきっかけでボマイエのひでおさんと出会って、ライターになったことで立石さんの目に留まった。積極的に声をかけてくれた友さんのおかげでchiico Lab. やn-spaceに興味が湧いて、今ではプロジェクトメンバーとして活動させていただいている。そして、このchiico Lab. で出会ったTANOさんやタカさん、まなさんにインタビュー記事を書く機会をいただいて、それがきっかけで好きなことが仕事に繋がった。決して、自分の努力だけで仕事にはならない。今になって思うことは、ここに書ききれないほどの出会いと繋がりが今の私を支えていて、この繋がりが明日の誰かを支えるかもしれないということ。そして、そのバトンを繋いでくれるコミュニティこそがchiicoLab. なのだ。 […]

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