第11話はこちら


チームの活動が止まってから、1年の歳月が流れようとしていた頃、以前と同じように健斗から連絡があった。

ちょっと話したいことがあるんですけど…。

別のチームを見つけたからそっちで活動しますとか、そういう話かもしれないと思いながら、近所のファミレスで集まることになった。そして健斗の口から、意外な言葉が出てきた。

和也と宏嗣と、やっぱりこのチームでもう1回活動したいって話をしました。和也の友達の蓮と泰樹も一緒にしたいって言ってくれているので、またチームとしてやり直したいです。

相変わらずカワイイ顔をしていた健斗だったが、暫く会わないうちに頼もしくなっていた。そして、この話をこの場に、一番に持ってきてくれたことが嬉しかった。チームの活動が止まった後、何度も後悔していた。事実上、チームを活動休止に追いやってしまった自分のやり方を責める日もあった。健斗はもう一度チャンスをくれないかというニュアンスでお願いをしに来てくれたが、自分も同じ気持ちだったし、逆に自分がチャンスをもらいたいくらいだった。

しかし、健斗の目は本気だった。

この1年、健斗は知り合いの別のチームでバスケを続けていて、チーム運営の実情を見た。そのチームは、自分の中学時代のコーチが所属しているチームだったのだが、定期的にキャプテンを変更したり、みんなで集まって方針を話し合ったりしていたそうで、健斗の目には新鮮に映っていた。そして同時に、「長野さんはこれを5年以上も1人でやり続けていたのか」と思ったとのこと。かなり苦労を感じていたことは否定しないが、健斗が1年間所属していたチームほど活発ではなかったので、おこがましいと思った。それでも健斗は、別のチームに所属することでPlanetのこれまでを客観的に捉えてくれるような人間に成長していた。

健斗やその年代のメンバーの熱意をありがたく受け取って、チームとしての活動を再開することに賛成した。この時、彼らが発起してくれなかったら今のPlanetはない。

そうして、今までのメンバーに蓮と泰樹を加えた新体制になったPlanetは、健斗をキャプテンに据えて再スタートを切った。
新体制になってからは、健斗が体育館を確保し、和也と宏嗣でお金の管理を取り纏めてくれた。更には、蓮と泰樹が率先して助っ人を集めてくれることで紅白戦の人数集めにも苦戦しなかった。チームの管理を複数人でこなしてくれたことで、かなり楽になった。我ながら器が小さいと思うけれど、この年は1年間この状況に甘えようと思った。そして、このおかげで自分が気付けなかったチームの在り方を見つめ直すことが出来たと思う。

そしてこの年の夏、久しぶりに対外試合を組むことになった。和也の会社の先輩から申し込まれた練習試合だった。

対戦相手は「AZUL UNITED」

和也からは、「初心者が多く最近出来たチーム」だという情報が入っていたが、その情報には寸分の狂いもなかった。こちらの初心者は村崎1人。とは言っても、経験者の中で数年揉まれてきた村崎がここで臆するはずもなく、失礼を承知で書き記すが、当時の力の差は歴然だった。しかし、この試合では勝てたことは元より、それ以外にも嬉しかったことが2つあった。

1つ目は、試合前に黎一(れお)が「力の差があっても全力で戦うことが礼儀ですね!」と言っていたこと。負けてばかりだったチームが言うセリフではないが、言う通りだと思った。かくいうPlanetも、ベスメン大会で国体に出たようなレベルの選手がゴロゴロいるチームに130点も奪われた試合があった。後半に入ると相手チームはヘラヘラと遊び始めていたし、それほどまでに力の差があった。しかしこちらは至って真面目に頑張っているのだから、悔しくないはずがなかった。たとえ自分たちが力のある立場であったとしても、同じことはしたくないと思っていたので、黎一のひと言が嬉しかったし、自分自身も試合を通じて手は抜かなかった。

と、さも自分が相手より上手いような表現をしたものの、この試合の自分の得点は0。限りなく0。油断も隙もない。

そして、2つ目に嬉しかったことは何か。ずばりこのAZULというチームに出会えたことだ。まるで活動当初の自分たちを見ているようだった。チームに居る数少ない経験者を中心に初心者のメンバーも含めて全員が楽しそうにプレイしていたし、チームを纏める松尾さんもまた、自分と同じようにチームの中では経験が浅い方だったからだ。スコアに差が開いても笑顔を失わないチームだったし、対戦相手の自分たちが良いプレイをしたら「今のは止めれんばい!」と手を叩いて褒めてくれた。

単純に、みんながバスケを楽しんでいた。

Planetも初めは間違いなくそういうチームだったし、勝ち負け以前に楽しいが先行していた。いつの間にか勝ちが欲しくなって、試合に出られる時間にも差が生まれて、チームの統制が徐々に取れなくなって、そして崩壊した。AZULのプレイを見ていると、チームを立ち上げた頃の「バスケが楽しい」という単純明快な気持ちを思い出させてくれた。

あくまで個人的な受け取り方かもしれないが、チームの始まりから今までを見てきたからこそだと思う。この練習試合を機に、今まで心のどこかで失っていたバスケの楽しさがみるみるうちに蘇った。

後々話を聴くと、このチームは松尾さんが営むバー「AZUL」の常連客の皆さんを中心に立ち上げたチームらしく、お店にも度々お邪魔させてもらうようになって、練習試合じゃなくとも「いつでもバスケに遊びに来い!」と言ってもらえるようになった。

今では毎月の予定を連絡してくれるので、予定が空いている日にはありがたくお邪魔させてもらっている。AZULの皆さんが聴かれると面白くないかもしれないが、自分の中では「第二の故郷」と形容してもおかしくないくらいに、気持ちよくプレイさせていただいている。

チームを再興してくれた健斗・和也・宏嗣・蓮・泰樹。

そして、勝ち負け以前に「楽しむこと」の大切さを思い出させてくれたAZUL UNITEDのみなさん。

この2つの要因が、今の自分のバスケライフにとって欠かせないきっかけでした。


続く

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長崎で活動するYouTubeチャンネル「遊ぶ門には福来る。」から生まれたウェブサイト。言葉の魅力、地域の魅力を不定期に発信していきます。

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2件のコメント

  1. […] 第10話はこちら事件の次の日、健斗から着信があり、会って話がしたいと言われた。ある程度気持ちも落ち着いていたし、家も近かったので二つ返事でOKした。昨日は何も考えずにすみませんでした。会って早々、健斗が謝ってくれた。話を聴いてみると、バスケの後、和也が発起して健斗と宏嗣の3人で話をしたらしい。3人の詳しい会話の内容までは覚えていないが、考えを改めたとのことだった。それから冬空の下、1時間以上話していたと思う。これまでチームを1人で運営してきたこと、話しても話しきれないほどの苦労があったこと、それでもいまのメンバーが大好きで、ここまでついてきてくれたことへの感謝は尽きないこと。そして健斗個人にも、チームがたくさん助けられてきたこと。募った想いを一通り話して、健斗はしっかりと耳を傾けてくれた。健斗たちだけが悪い訳ではなく、上手く分散できなかった自分にも責任があった。結局、毎熊と衝突したときから何も変われていなかったんだと痛感した。抜けるところで力を抜けず、抱え込んだ不安を、責任感を盾に振りかざしていた。全てを話したスッキリしたことに間違いはなかったけれど、同時に自分の不甲斐なさを改めて知った。健斗たちの気持ちは素直に嬉しかったし、バスケとチームへの愛情が無くなるはずがなかった。だけど、一度切れてしまった気持ちをすぐに取り戻すことはとても難しかった。そして、この日を境に練習は更に頻度が減り、体育館を借りることもやめた。チームは事実上の活動休止となった。続く第12話はこちら[番外編!]今回は話の内容の関係で記事が短くなってしまったので、完全な独断と偏見ですが、いまのPlanetを構成するメンバーの紹介をします!(ちょーの)本名は長野(ながの)。恥ずかしながら、この物語の筆者で、チームの創設者です!(ひらた)あそふくメンバーの平田。身軽なフットワークとスピードで相手を翻弄!(むらさき)あそふくメンバーの村崎。チーム唯一の初心者。彼のゴールでチームは息を吹き返す!(上野)積極果敢なプレスとスリーポイントで流れをひきよせる。勝利の裏には上野がいるが、ライブになるとすぐ帰る!(健斗)丸亀製麺のうどんですくすくと育った現体制のキャプテン。次回より語られる健斗の成長に、目が離せないはず!(和也)冷静な判断とシュートセンスが光るユーティリティプレイヤー!誰よりも村崎のことが大好き。ほんとに大好き。(宏嗣)とってもマイペースな性格とは裏腹に、インサイドで果敢に戦ってチームを支えてくれる大黒柱!頼りになります!(泰樹)力強いリバウンドでチームに勢いをもたらしてくれるファイター!体育館で服を脱いで管理人に怒られたのは良い思い出。笑(蓮)広い視野と鋭いドライブで相手を脅かすPlanetのポイントガード!経験値も豊富で、蓮に褒められるとステータス。笑(礼央)県外から度々足を運んでくれる優しい性格。泰樹、宏嗣とともにインサイドを制圧するセンター!(黎一)軽いモーションから放たれるスリーポイントで相手ゴールを撃ち抜く!明るい性格でチームを盛り上げてくれるカワイイ後輩!(高屋くん)冷静に相手の隙を突くクールなプレイヤー!スティールで速攻を決めてチームの流れを引き寄せる!他にも、これまでチームに関わってくれたメンバーが沢山います!今回は一部のみ紹介させていただきましたが、今後の物語の中にも色んな人が登場するので、楽しみにしていてくださいね! […]

  2. […] 第12話はこちらチームが活動を再開してからというもの、たくさんの人が練習に遊びに来てくれた。時には強豪校のバスケ部を引退した高校生、時には各メンバーの兄弟、更には別のチームの方が数人で参加してくれたりと、1回限りの参加の方から、助っ人参加を機に今では定期的に参加してくれる方までいる。こうして、いろんな人の協力のおかげで紅白戦や練習試合を繰り返しながら、2017年も終わりに差し掛かってきたところで、チームは本当の再起を図ることになる。もう1回フープに出ましょう!誰がきっかけかは覚えていないが、おそらく健斗だと思う。いつも参加してくれているメンバーは二つ返事で了承し、2年ぶりにフープリーグに参加することになった。前回参加していた時はリーグの参加は強要していなかったものの、「みんなが出るなら…」くらいの気持ちで登録をしてくれていた人もいると思う。しかし今回の選手登録は、同じように「出たい人は登録して、試合は出なくてもいいという人は強制はしない」と言い、それぞれが本当の気持ちで登録したり、登録しなかったりの選択が出来た。…と、個人的には思っている。部活動と違って、バスケに対する価値観やプライオリティーはそれぞれ違う。仕事が忙しかったり、他にも趣味があったり、更には家庭があったりするので、これが社会人チームの理想の形だと思った。学生時代の内紛や、社会人になってからの活動休止の経験を通して、チームの全員がそれを理解できていた。あるいは、理解できていなかったのは自分だけかもしれないが。当時、チームで飲み会の席を設けたが、お酒が回ってきた健斗がしきりにこのチームの魅力を語っていた。村崎や和也は、何度も同じ話をする健斗に飽き飽きしながらもにこやかに聴いていたと思う。たしかに健斗はニヤニヤした表情で何度も同じことを繰り返していたが、「分かったって」と諭しながらも誰一人それを否定はしなかった。その日、ほろ酔い気分で撮った集合写真をInstagramに投稿し「#キャプテン健斗がいまアツい」と添えた。そして、あっという間にチームとしては6回目の年を越し2018年になった。リーグ再編入となるこの年の最初の練習は、健斗・宏嗣・和也の発案で新春フリースロー大会を行うことになった。チームの企画を運営側目線で見ないという初めての経験。なけなしの運営費でどんな景品を引っさげてくるのかワクワクしながらフリースローを打った。順位まで覚えていないが、上位の賞は練習着やプリペイドカードなど、自分が企画した時よりもかなり豪華な景品が立ち並んでいて驚いた。そして、特賞の景品を見て更に驚くことになる。この時、特賞を獲得したのは上野。そしてなんと、幹事の3人が上野に手渡したのはPS4だった。えええ!!!?全員が本当に驚いた。中古だと言っていたものの、それでも数千円で買える品物ではない。嬉しい重たさを抱える上野は今にも羽ばたきそうな軽快さでニコニコしている。いつもニヤニヤしている上野が無邪気にニコニコしているのだ。見ているこっちまで幸せになってきたところで、上野が我慢できずに開封しだした。箱の外装にPS4がしっかりと描かれている。中身なんてわざわざ開けなくても分かっていると思っていた次の瞬間。は!?は!?!?上野の表情が一変した。なんと、中に入っていたのはパンツ1枚と箱びっしりに詰め込まれた2リットルのペットボトル(水入り)だったのだ。ペットボトルを空にせず重みを持たせ、幹事がPS4を勿体ぶることで上野の喜びもひとしお。用意周到な作戦で見事に上野を地獄の底に叩き落とした。3人の計画には心底感動したし、普通のフリースロー大会で終わらせないホスピタリティ。どんなタイミングだよと揶揄されるかもしれないが、こいつらにチームを任せてよかったと確信した。この後、なおも勢いの止まらない3人によって複数人がパイ投げをありがたく頂戴することになる。新年一発目の練習は笑いの絶えない思い出となった。続く […]

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