歩く人と止まる人

エッセイ

仕事を終えて時計に目を向けると、時刻は19時を少し過ぎた頃。最近は月が顔を出すのがめっきり遅くなってきたので、バスを乗り継ぐよりも時間はかかってしまうが長崎駅まで歩こう。

さて、今日の記事は何を書こうか。記事を書けない状況にあるときには次々と書きたい話題が次々と出てくるのに、かしこまって考えてしまうと出てこない。駅からはバスで帰るため、駅に着くまでの20分間で今日更新する内容を決めよう。文章はそれからだ。イヤフォンを付けて音楽を鳴らす。それから、最近買い替えたばかりのスマートフォンをポケットにしまった。

先週末に行ったカフェにしようか。昼休みに読み終わった本にしようか。はたまた、昨晩プライムビデオで見た映画にしようか。候補が出てきたところで、文章の書き出しがすんなり出てくる話題をチョイスする。今回は昼休みに読み終わった本についての紹介記事を書くことにしよう。

しかし、あそふくの記事を書きだしてからというもの、「長崎」に関する記事が多いかというと、そうでもない。「長崎を中心に展開するエンターテインメント」と謳っているが、これにはあそふくなりの意図がある。メンバー好きなモノ・コトを紹介するときに「長崎」というワードが足枷になってしまうことを懸念したからだ。とは言え、やっぱり長崎が好きだという気持ちは変わらない。その結果、「長崎を中心に」というフレーズを選んだ。我ながらズルいと思いながらもそれなりに納得しているし、無論昼休みに読み終わった本は長崎とは無関係だ。

そんなことを考えていると、あっという間に最後の横断歩道に差し掛かった。左折する軽自動車は私が横断歩道を通り過ぎていくのを待っているが、そんなの知ったことではない。歩行者が優先なのだ。

長崎駅前のバス停に到着すると、程なくしてバスが来た。座席も空きが目立つ。よし、座れるな。バスを降りるまで記事の下書きを書こう。隣に座るお客さんの買い物袋が太ももに当たってひんやりするとか、後ろの席に座った男子高校生のイヤフォンから音が漏れているとか、くだらないことにちらちらと気を取られながらも、スマートフォンとひたすらにらめっこ。ああでもないこうでもないと、文章を打っては消してを繰り返す。自分以外の誰が添削するでもない拙い文章を、これまた自分以外の誰がアクセスするかも分からないホームページに掲載するために毎日だ。「どこの誰かも知らないあなた」が私の記事を読んで、面白かったよと言ってくれるような妄想を広げるばかり。自己満足も甚だしい。

バスを降りるまでもう少し。記事もひと通り下書きが終わったところで顔を上げると、バスが右折の途中で止まっている。よくよく見てみると、数人の中学生が横断歩道を渡っていた。早く家に帰ってトイレに行きたいんだ、お願いだからささっと渡ってくれ。そっと心で呟いた。

家に帰り、スーツから部屋着に着替え、洗濯機にワイシャツと靴下を放り込んでトイレに入る。用を足しながらふと思い出した。さっきの中学生は、さっきの私そのものじゃないか。バスに乗った私がトイレを我慢していることなど、中学生の知ったことではない。私が悠々と横断歩道を渡っている様を見て、軽自動車の運転手はトイレを我慢していたかもしれない。いや、それならまだ良い。もしかすると、大切なデートの待ち合わせに遅れてしまったかもしれない。更にそれが原因となり、女の子に振られてしまったかもしれない。あの軽自動車の運転手が男か女かも知らないくせに、これは悪いことをしたと罪悪感に苛まれる。

すっかりモヤモヤしてしまった私は、台所で料理をする妻に顛末を話した。すると妻はあっけらかんとした表情で「みんなそんなもんじゃない?」とだけ言った。歩行者が優先であることも変わらないし、歩く人がいるから止まる人がいる。ごくごく当たり前のことなのだ。そんなことは言われなくとも分かっているし、モヤモヤが晴れるはずもない。じゃあ明日からは、横断歩道を渡る私のために止まってくれる人がいたら、その人のために小走りで渡り切ってしまおう。

その人はもしかすると、「どこの誰かも知らないあなた」なのだから。

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エッセイ
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